前回女性に特徴的な病気を取り上げましたので、今回は男性に特徴的な病気を話題とします。

男女に頻度差のある病気は多いですが(前立腺肥大症や子宮内膜症など男女に特有の臓器に関連する病気は除きます)、ありふれた病気で痛風ほど顕著な例はありません。閉経前の女性が罹患することはほとんどありません。
一方男性にとって痛風はかなり頻度の高い病気となっております。
足を引きずりながら診察室に入ってくる患者さんは痛風発作の患者さんです。

 

痛風の鍵となる尿酸トランスポーター

風が吹くだけで痛みを感じるという病気が痛風です。歴史上の偉人が患者リストに連なります、アレキサンダー大王、ルター、ニュートン、ダーウィンなどそうそうたるメンバーです。

痛風はもともと贅沢病とか帝王病とかいわれ、肉食などの過食、飲酒などの生活習慣が関与する典型的な疾患と考えられていました。
現在では遺伝と生活習慣が関与する病気と認識されています。
閉経前の女性には稀で、98%以上は男性におこります。
痛風は高尿酸血症が基礎にあります。尿酸は水に溶けにくい性質を有するので、一定濃度を超えると析出し尿酸結晶として関節腔にたまります。
これが炎症を引き起こし強烈な痛みとなります。

2002年に尿酸トランスポーター(URAT1)というタンパク質が腎臓の尿細管で尿酸再吸収に働いている事が示されました。
URAT1に異常があると尿酸の取り込みができず低尿酸血症となることがわかっています。男性ホルモンであるテストステロンで制御され、URAT1の発現量は男性が女性の2−3倍となっており、男性における尿酸再吸収能の高さを示しています。また尿酸排泄促進剤であるプロベネシッドにより発現が阻害されます。
また痛みや炎症を抑える目的で投与される非ステロイド抗炎症薬(ロキソニンとかカロナール)でも発現抑制がみられました。これらの薬が高尿酸血症に効くことをよく反映しています。
同時に尿酸が腎臓尿細管により再吸収されることが分子レベルで示されました。すなわち、尿酸は排泄されるべきものでなく、再吸収されるべきものといえます。

 

痛みに耐えて長寿を得る

私が専門としている進化医学の課題はどうしてその病気があるかを考察することです。
突然痛みがくる病気にどのような進化的意義があるのでしょうか。
尿酸はヒトにおいてはプリン体の最終代謝産物です。多くの生物では尿酸酸化酵素によりさらに分解されアラントインと言う化合物となり尿素まで代謝されます。

尿素は最も水に溶けやすい化合物ですので、尿から排泄されます。ヒトなどの霊長類は尿酸酸化酵素が機能を失っています。そのため痛風をきたすのですが、どうして尿酸酸化酵素の機能がなくなったのでしょうか。
尿酸は強い抗酸化作用を有し、例えば癌への抵抗性を高めるとされます。血中尿酸レベルと生物寿命が相関するというデータもあります。
すなわち長寿の動物ほど尿酸レベルが高いという結果です。
同様に抗酸化作用を有する物質としてビタミンC(アスコルビン酸)があります。霊長類の祖先において、ビタミンC合成経路に障害がおき、ビタミンCは食物から摂取するしかなくなります。
ビタミンCは体にとって抗酸化作用を有する重要な物質ですが、外から摂取しないといけないのです。そこで尿酸酸化酵素の機能をなくし尿酸レベルを高めることで酸化に対するリスクに対応したのかもしれません。
そう考えると、痛風が起きない程度に尿酸レベルを高く保つことは悪い事ではないように思えます。
尿酸の抗酸化作用などが強調されますが、女性において尿酸値が低いことも事実です。女性ではURAT1の活性が低いため、腎尿細管での尿酸の再吸収が少なく、排泄されやすいためです。
女性では尿酸値は低くても、平均寿命は女性の方が長いのはどうしてでしょうか。
女性では筋肉の活動性が低いため過酸化物質の生成が少ないためと説明されます。

いずれにせよ、尿酸のみで決まらないことは明らかで、われわれがまだ理解していない事柄が多くあるようです。

 

尿酸は下げればいいというものではない

尿酸の抗酸化作用は述べましたが、血中の尿酸が高い患者さんには尿酸合成を阻害する薬や尿酸排泄を促進する薬が処方されます。
尿酸値が下がって安心してはいけません。

最近の論文によると、低い尿酸値は多発性硬化症、視神経炎、パーキンソン病、アルツハイマー型認知症と関連していることが示されました。炎症が起こった時、特に神経系において、尿酸レベルが低いと炎症を抑えることができないためと説明されています。

何事もバランスが必要ということでしょうか、鹿児島弁で言うテゲテゲです。